2026/06/20 16:35


悠久の時が澱み、あらゆる光が吸い込まれる宇宙の最果て。

そこには、重厚なゴシック様式のアーチ窓だけが、虚無の空間にぽっかりと浮かび上がっている。ステンドグラスの代わりに嵌め込まれているのは、果てしなく続く星海のまたたき。流れ星が銀色の糸を引いて落ちていく様は、まるで誰かの流した涙のようだった。

その窓辺に、彼女は座している。

名を、アストライア。

『天の女王』にして『星々の女主人』と呼ばれる、美しき神格。

彼女が身に纏うドレスは、ただの織物ではない。それは深い夜の闇をすくい取り、幾千、幾万の銀河を金糸と銀糸で刺繍した、宇宙そのものの切れ端であった。彼女が微かに身じろぎするたび、ドレスの襞の奥で星雲が渦を巻き、新たな超新星がひっそりと産声を上げる。艶やかな黒髪は重力から解放されたようにふわりと広がり、透き通るような白い肌は、いかなる恒星の光よりも冷たく、そして滑らかであった。

彼女の目の前には、白と瑠璃色が交互に並ぶ、豪奢な市松模様の盤面が広がっていた。

盤上のあちこちに、黄金の光を放つ星々が、まるで精巧なチェスの駒のように配置されている。

「さて、次はどの手を打ちましょうか」

アストライアの唇からこぼれた声は、極上のベルベットのように柔らかく、甘かった。しかし、その響きの底には、人間には到底理解し得ない、冷酷なまでの絶対的な理(ことわり)が潜んでいる。

傍らでは、古びたローブを羽織った灰色の猫が、真鍮製の三脚に支えられたアンティークの天体望遠鏡を覗き込んでいた。彼は星々の産声と、終焉の嘆きを記録する忠実なる書記官である。

「女王陛下。オリオンの腕の辺境にて、些細な歪みが生じております。駒の配置が、完璧なる調和を乱しているやもしれません」

猫が羽根ペンを走らせながら、平坦な声で告げた。

「そう。それは可哀想に」

アストライアは、愁いを帯びた瞳で盤面を見つめた。


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